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投身自殺

更新日:2021年7月5日




投身自殺





         日置俊次歌集『記憶の固執』より



 

      匣のゆきかふ街



 金の背が揺らめきぬ冥(くら)く灼けてゐるレールに登るこがねむしあり


 サンプラザの斜めなる影さえぎりて匣(はこ)はゆきかふ昶(なが)きホームに


 真つ青なかうもり傘を杖にして炎天に佇(た)つ顔は見えざり


 すべりくる匣のつらなり火のいろすホームの靴は火へとがり初む


 細巻きの青傘ひつそり倒れたり線路へ跳びし髪なびくとき


 われひとり叫びあげをりレールに乳房圧しつける夭(わか)きくろき眸(め)と遭ひ


 わが頭(づ)よりうへなる非常ボタン押すひとかきわけてその火のいろを


 やうやくに停まりし車輛ドアあかず窓にぎしぎし揺るるひとかげ


 踏まれ蹴られながされてゆく青き傘ひろひあぐあをき愴(いた)みとともに


 サラリーマン笑みつづけをりいま投身のホームに蕎麦のどんぶりかかへ


 非常ボタン咎むるごとく誰何(すいか)する痩せた駅員 傘を手渡す


 アナウンスひとつもあらず寸前で避けたと幽(かす)かな翳のざわめき


 ひとかげにふくるる匣(はこ)はつらなりて火祭りのごとく動きはじめぬ





 投身というのは本来は、水中に飛びこんだり高い所から飛びおりたりすることを言いますが、ここでは電車に向かって身投げするときのことを指しています。


 東京の中央線(濃いオレンジ色の電車)の、中野駅で、若い女性の投身自殺(未遂)の現場を見たことがあります。この一連はその情景を詠みました。


 おおぜいの人がいましたが、誰も事件に興味がないようでした。

 飛び込んだ女性の持っていた青い傘をひろって、駅員に渡しましたが、どうなったでしょうか。


 私はホームにいました。

 近くに立ち食いそばのスタンドがあり、そこでそばを食べていたサラリーマンはずっとニタニタ笑っていました。楽しそうでした。


 傘の写真はインターネット上に出ているものの中から選び、トリミングをして加工し、使用させていただきました。感謝します。






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