犬の世界
- shunjihioki

- 2021年7月6日
- 読了時間: 3分
犬の世界
14年前、たまたまブリーダーのところで売れ残っていたダルメシアンの子犬を安く譲ってもらった。目の色が左右で違うので、嫌われていたらしい。両親はチャンピオン犬であるが、ダルメシアンの世界では、目の不ぞろいは失格とされる。オッドアイの左がブラウン、右がブルー。女の子らしい名を探して、ルメと名付けた。ダルメだからルメである。
もちろん散歩が日課となった。もともと馬車の先導犬で、毎日数十キロを走る犬種なので、運動好きである。幸い近くに大きな公園の森や池があり、ルメと四季おりおりの風景を堪能することになった。
大型犬と暮らすのは初めてであった。小型犬とはまるで世界が違う。長い脚のしなやかさや力強さは、犬というよりも、小さな縞馬を飼っている感触がある。
酷暑の日も、秋霖の日も、大雪の日も通い続ける公園で、私は顔見知りになった木や鳥に名をつけて呼びかける。ルメがいなければ、こんな出会いはなかったかもしれない。そういう話をすると、ルメが短歌をくれるのでいいわねと人から言われる。しかし、ルメは歌を作ってはくれない。
散歩の途中の風景に目を凝らすのは私である。ルメは、私がルメ以外のものに夢中になることを好まない。辛夷や山雀の写真を撮っていると、ルメが引っ張るのでぼけてしまう。ルメは甘えん坊で嫉妬深い。
サクラのクララから花びらをもらったときも、クヌギのヌギーからカブトムシの居場所を教えてもらったときも、カワセミのチイちゃんからエメラルドのような背中を見せてもらったときも、いつもルメの妨害を耐えながらの出来事で、私はルメに謝りつつ、写真を撮り、メモを取る。
犬は一日で、人間の一週間分を生きる。幼かった命が人の7倍のスピードで老いていく。だからルメの一日を大切にしたい。昔、可愛がり過ぎたメスのインコが私をパートナーと思ってしまい、卵を産み過ぎて死んだ。ルメには気を付けて接している。可愛がればいいというものではない。
犬の世界には犬の決まりがある。平等ではないことを、ルメは知っていて、一緒に寝るときも、頭は私の足の方に向けて寝る。そのうち、ふらふらと立ち上がり、私の枕を奪って寝始めるが、一応約束事があるのである。
起きると私の口をなめる。ルメが何を要求しているのか、顔を見れば感じる。感じるということをルメも知っている。
ルメの右目は変幻自在で、光が当たると青いが、日陰では茶色や黒に変わる。
ルメの短い毛は始終抜け続けて、家の中は毛だらけになる代わり、ルメは清潔で何の臭いもない。
人間でいえば80代から90代となり、視力が落ち、涙もろくなり、走れなくなった。
私には、全世界をハッピーにする能力も責任もない。しかし、ルメは幸せにしたい。
写真は今朝の散歩中のルメ。梅雨で地面がまだぬかるんでいる。




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