心の中の闇
- shunjihioki

- 2021年6月24日
- 読了時間: 2分
更新日:2021年6月28日
心の中の闇
人間の心の中にある闇。
それを痛みとともに描き出すことが、小説『エメラルドの夜』の一つのテーマとなっています。
台湾の地獄谷は、そんな闇を照らし出し、浮かび上がらせる働きをします。
そして龍たちは、やはりそんな闇のなかを縦横に身をくねらせて飛ぶ存在を表しています。
小説の書き出しを、ここに引用しておきましょう。
目の前には、薄いエメラルドグリーンの水面(みのも)が続き、そこから絶え間なく湯気が舞いあがっている。湯気はたち迷い、ふいに津波のように熱く押し寄せてきて、この世のすべてを包み込むかのごとく、視界を白く消し去ってしまう。むっとする熱気に、たちまち汗が噴き出してくる。しかし、そんなずっしりと重い湯気の膜も、一瞬のうちに、また風が追い散らしていく。鬱蒼とした木々の緑に囲まれて静かに沸騰する水面が、次々と見えてくる。いや、水面ではなく、これは「湯面(ゆのも)」と呼ぶべきなのであろう。沸きたつ湖は、湯気のまにまに、不思議なほど清澄なかがやきを放っている。じっと見ていると、尻尾を巻いた龍のかたちの湯気が、そこかしこにふわふわと跳ね回っているようだ。眼がくらんで、頭の芯がしびれてくる。それでも茫然と立ちすくんだまま、その湖面に変幻する不思議ないろの光をいつまでも見つめていたくなる。ごみごみした日本から脱け出して、ようやくたどり着いたこの異郷の地の、樹々の深い緑に囲まれたこの谷で、それが救いの光であると信じて……
写真は、地獄谷に舞い上がる湯気と、『エメラルドの夜』です。


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